日本の国際化は「一方通行」なのか――世界を迎える日本、海外に出ない日本人

日本の国際化が、外国人を受け入れる一方で、日本人は海外に出ないという「一方通行」のものになっている。パスポート手数料の引き下げは、その状況を変えるための一歩にすぎず、より幅広い取り組みが必要だ。
柴思原 2026.08.14
誰でも

2026年7月1日、日本はパスポートの申請手数料を大幅に引き下げた。18歳以上がオンラインで10年旅券を申請する場合、手数料は15,900円から8,900円へと7,000円引き下げられ、成人向けの5年旅券は廃止された。18歳未満は5年旅券のみ申請可能となり、手数料は4,400円となった。年齢によっては、従来より最大6,500円安くなる。窓口申請の場合は、いずれの区分でもオンライン申請より400円高い。

この変更の背景には、日本が直面する、いわば「一方通行の国際化」がある。海外から日本への移動が急速に拡大する一方、日本から海外への移動は低調なままだ。2025年末時点で、日本国内に住む日本国民が保有する有効な一般旅券は2,193万冊で、日本国籍人口の約18.4%に相当する。この割合は前年の17.3%から上昇したものの、2019年の23.8%を依然として下回っている。

日本の海外への移動の弱さは、訪日旅行と日本人の海外旅行との間で広がる格差にも表れている。2025年の訪日外国人旅行者数は過去最多の4,268万人に達し、2019年の3,188万人を33.9%上回った。一方、日本人出国者数も前年比13.3%増の1,473万人まで回復したものの、2019年の2,008万人と比べると、なお26.6%少ない。コロナ禍後の回復は、海外旅行よりも訪日旅行の方がはるかに力強い。

学生の国際移動にも、同じような不均衡がみられる。2025年5月時点で、日本の外国人留学生数は過去最多の408,069人となり、前年から21.2%増加した。このうち、60.5%が日本語教育機関または専門学校に在籍していた。一方、2024年度に海外に留学した日本の高等教育機関の学生は91,054人で、前年比ではわずか2.1%の増加にとどまり、コロナ禍前のピークだった2018年度の115,146人を依然として大きく下回っている。さらに、その約3分の2は留学期間が1か月未満だった。

この二つの統計は異なる基準に基づいており、単純に比較できる数字ではない。それでも、日本の教育機関では外国人留学生の受け入れを通じて国際化が進む一方、日本人学生が海外で持続的な経験を積む機会は、なおはるかに限られていることを示している。

政府自身も、双方向の学生移動を拡大する目標を掲げている。2033年までに、高校生と高等教育機関の学生の海外留学者数を50万人、外国人留学生数を40万人に増やすことを目指している。しかし、これらの目標に向けた進展には大きな差があり、外国人留学生の受け入れは、日本人学生の海外留学よりもはるかに速く拡大している。後者の40万人という水準は、2025年時点ですでにおおむね上回っている。

日本人の海外への移動を制約している背景には、経済面と実務面のさまざまな要因がある。円安実質賃金の停滞によって、航空運賃や宿泊費、海外留学の学費、現地での日常生活費の負担は大きくなっている。英語力も依然として大きな障壁の一つだ。スイス・チューリヒに本部を置くEF Education Firstの2025年版「EF英語能力指数(EF EPI)」では、日本は世界96位、アジア25カ国・地域中17位で、最も低い「非常に低い」カテゴリーに分類された。日本のスコアはモンゴルやアフガニスタンとほぼ同水準で、マレーシア、フィリピン、香港、韓国、インド、中国を大きく下回った。

さらに、慣れない環境で行動することへの不安、地政学的リスクや安全面への懸念、海外旅行を手配する際の事務的な負担も、さらなる障壁となっている。学生の場合には、日本の学事日程、硬直的な就職活動のスケジュール、海外経験に対する企業の評価の低さ、奨学金や家族からの経済的支援を得る機会の格差といった要因が重なっている。

もっとも、こうした制約がすべての日本国民に同じように作用しているわけではない。年代や性別による違いを見ると、「若者は内向きで、海外に出たがらない」という一括りの見方には疑問が生じる。2024年には、20代女性の出国率が29.4%に達し、人口全体の10.5%を大きく上回っていた。

JTB総合研究所が実施した2024年の「海外旅行志向調査」でも、若年層は為替レートに対する抵抗感が比較的少ないことが示されている。男女ともに30代以上では「円高になったら行きたい」とする回答が多かった一方、30歳未満の男性では、「為替レートに関係なく行きたい」または「1ドル150円以上でも希望する旅行があれば行きたい」とする回答が計45%を占めた。30歳未満の女性では、「海外旅行における為替レートの適正がわからない、考えたことがない」が44%で最も多く、「為替レートに関係なく行きたい」または「1ドル150円台でも希望する旅行があれば行きたい」とする回答も計30%に上った。したがって、日本人の海外への移動が伸び悩んでいる背景には、若い世代が単純に「内向き」になったというよりも、経済的・制度的な制約の影響が大きいと考えられる。

こうした傾向の影響は、観光分野にとどまらない。日本企業にとっては、異なる言語、市場、制度や文化のなかで仕事ができる人材の層が縮小するおそれがある。日本の教育機関では過去最多の外国人留学生を受け入れる一方、自国の学生が海外で経験を積む機会は依然としてはるかに限られている。こうした不均衡は、長期的には、ビジネスや研究分野における日本の国際競争力を弱めることにもつながりかねない。

同時に、他国や他の社会に触れる機会が限られていることは、多文化化が進む日本社会を理解し、向き合ううえで、人々の準備を不十分にする可能性もある。とりわけ、外国人住民が言葉の壁や行政手続き、文化の違いに対応する際に直面する困難を理解するうえでは、包括的な国レベルの統合政策の枠組みが欠けていることも課題となる。人口減少と人手不足が進むなか、外国人住民は過去最多の413万人、総人口の約3.3%に達している。こうした海外経験の乏しさは、反移民感情の高まりに一部寄与している可能性もある。

最近の複数の世論調査でも、外国人のさらなる受け入れに対する姿勢が、より慎重な方向に傾いていることが示されている。『読売新聞』と早稲田大学先端社会科学研究所の共同世論調査によると、「労働力として外国人を積極的に受け入れる」ことに反対する割合は、2024年の46%から2025年には59%へ上昇した。また、外国人の増加による影響については、「治安が悪化する」が68%で最も多く、「言語や文化、習慣の違いからトラブルが起きる」が63%で続いた。若い世代ほど外国人の増加を治安悪化と結びつける傾向が強い一方、年齢が高い層ほど人手不足の解消につながると考える傾向がみられた。

東京大学社会科学研究所が2026年に実施した別の調査でも同様の傾向がみられ、「外国人の日本定住をさらに受け入れること」に反対する割合は、2024年の35.6%から2026年には56.3%へと大幅に上昇した。しかも、その増加幅は若い世代ほど大きかった。こうした傾向は、人口減少と人手不足が進むなか、日本が外国人労働者をますます必要としている現実との間に明らかな緊張を生んでいる。日本の国際化が、外国人を受け入れる一方で、日本人自身が海外に出て異なる社会や文化に触れる機会を十分に持たない「一方通行」のものになれば、この隔たりはさらに広がりかねない。

パスポート手数料の引き下げは、日本人の海外への移動を後押しするための前向きな第一歩ではあるが、それだけでは十分ではない。中長期の海外留学に対する経済的支援の拡充、大学の学事日程や単位認定の柔軟化、長期間海外に滞在する学生が不利になりかねない新卒採用スケジュールの見直しなど、より幅広い取り組みが必要だ。企業側も、採用やキャリア形成において、有意義な海外経験をより積極的に評価することができる。重要なのは、単に海外へ出る日本人の数を増やすことではなく、より深く、持続的に国際社会とかかわる機会を広げることである。日本の長期的な競争力は、世界を受け入れる力だけでなく、日本の人々が自信と経験を持って国際社会とかかわることができるかにもかかっている。

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