多党化が文化的保守主義と出会うとき
2024年の衆議院選挙と2025年の参議院選挙は、日本政治の大きな転換点となった。2012年以降続いてきた、自民党を中心とする与党が国会で安定した多数を確保する政治状況が崩れ、日本の政党政治は、連立や政党間の協力がこれまで以上に重要となる、流動的な局面に入った。2024年の衆議院選挙では自民‧公明の与党が過半数を失い、2025年には参議院でも与党が過半数を割り込んだ。2024年の衆議院選挙では10政党が議席を獲得し、2025年の参議院選挙では11政党が議席を得た。参政党、れいわ新選組、日本保守党、チームみらいなど、比較的新しい政党も存在感を高めた。なかでも、参議院の議席を1から14へと急増させた参政党は、国内外で大きな注目を集めた。
政党の数が増え、政党間の競争が激しくなると、それまで主要な対立軸になりにくかった問題が、新たな選挙争点として浮上する余地も広がる。近年の日本では、その一つがジェンダーや外国人をめぐる問題である。自民党が長く優位を保ってきた時期には表面化しにくかった政党や候補者の立場の違いが、多党化の進展とともに、より見えやすくなっている。
その変化は、東京大学谷口研究室‧朝日新聞社共同調査からも読み取ることができる。この調査は、東京大学と朝日新聞社が共同で実施している調査プロジェクトで、2003年以来、国政選挙ごとに政治家調査と有権者調査を実施し、政治家の政策的立場と有権者の意識を継続的に追ってきた。調査では幅広い政策課題が取り上げられているが、ここではジェンダーと外国人受け入れに関する主な質問を見ていきたい。
以下では、最終的に議席を獲得した候補者を「当選者」とし、衆議院選挙については比例復活当選者も含めている。割合は、5段階で尋ねた質問について「賛成」または「どちらかと言えば賛成」と回答した人が、当選者全体に占める比率である。有権者調査についても同じ方法で算出し、その質問に回答しなかった人も分母に含めている。
まず、選択的夫婦別姓と同性婚をめぐる態度を見てみよう。調査では、選択的夫婦別姓について「夫婦が望む場合には、結婚後も夫婦がそれぞれ結婚前の名字を称することを、法律で認めるべきだ」、同性婚について「男性同士、女性同士の結婚を法律で認めるべきだ」という意見への賛否を尋ねている。2022年から2025年の参議院選挙の間に、前者に「賛成」または「どちらかと言えば賛成」と回答した当選者の割合は54%から52%へ、後者については46%から44%へと、それぞれ小幅に低下した。2016年の参議院選挙では、支持は選択的夫婦別姓が44%、同性婚が26%にとどまっており、その後は上昇が続いていた。2025年の結果は、その流れが反転したことを示している。

一方、2024年の衆議院選挙では、それまでの上昇傾向が続いていた。選択的夫婦別姓への支持は、2014年の29%から2021年には52%、2024年には65%まで上昇した。同性婚への支持も、2017年の25%から2021年には39%、2024年には49%へと増えている。
ところが、有権者の側では異なる動きがみられる。選択的夫婦別姓への支持は2023年の58%から2025年には53%へ、同性婚への支持も49%から43%へと低下した。2017年にはそれぞれ37%と32%だったため、長い目でみれば支持は依然として高い。しかし、少なくとも直近の調査では、それまで続いてきた上昇傾向に変化が生じている。


外国人労働者の受け入れについては、さらに大きな変化がみられる。調査では「外国人労働者の受け入れを進めるべきだ」という意見への賛否を尋ねている。この意見に「賛成」または「どちらかと言えば賛成」と回答した当選者の割合は、参議院では2022年の58%から2025年には38%へと大幅に低下した。2016年には34%だったが、その後は上昇が続いていたため、2025年の低下はそれまでの流れを大きく反転させるものだった。
衆議院でも同様に、外国人労働者の受け入れを進めることへの支持は、2021年の54%から2024年には49%へ低下している。2014年には26%にすぎず、その後は一貫して上昇してきたことを考えると、こちらでも変化の兆しがみえる。
近年の東京大学・朝日新聞共同有権者調査では、外国人労働者を増やすことへの賛否を尋ねる質問が、毎回連続して尋ねられているわけではない。そこで、一般の有権者にも同じような変化が起きているのかを確かめるため、他の世論調査も見てみよう。

『読売新聞』と早稲田大学が共同で実施した2025年の世論調査では、「労働力として外国人を積極的に受け入れる」ことに「反対」または「どちらかといえば反対」と答えた人は59%に達した。前年の46%から13ポイントの上昇である。
外国人が増えることによる影響については、「治安が悪化する」が68%で最も多く、「言語や文化、習慣の違いからトラブルが起きる」が63%で続いた。興味深いのは世代差である。若い世代ほど外国人の増加を治安悪化と結びつける傾向が強かった一方、年齢の高い世代ほど、人手不足の解消につながると考える傾向がみられた。
東京大学社会科学研究所が2026年に実施した別の調査でも、同じ方向の変化が確認されている。「外国人の日本定住をさらに受け入れること」に「反対」または「どちらかといえば反対」と答えた人は、2024年の35.6%から2026年には56.3%へと増えた。わずか2年間で20.7ポイントの上昇であり、とりわけ若い世代で反対の増加が目立った。
もっとも、日本人の外国人受け入れに対する態度が、長期にわたって一貫して厳しくなってきたわけではない。マスメディア、研究機関、政府が実施した10件の世論調査を整理した研究によれば、日本における移民‧外国人受け入れへの意識は、1980年代から2023年まで大きく変化していなかった。その意味では、2025年から2026年にかけて複数の調査で確認された変化が一時的なものなのか、それとも新しい傾向の始まりなのかは、今後も慎重に見ていく必要がある。
外国人に対する警戒感の高まりを、より広い社会の変化と切り離して考えることも難しい。近年は、安全保障や防衛をめぐる世論にも変化がみられる。2025年の内閣府調査では、自衛隊の規模や能力について「増強した方がよい」と答えた人が45%に達し、この質問が始まった1991年以来の最高値となった。その理由として多く挙げられたのが、周辺国の軍備増強やミサイル発射への懸念である。また、2025年の産経新聞とFNNの共同世論調査では、防衛費の増額を加速することに63%が賛成した。18~29歳では83%、30代でも76%に達しており、若い世代ほど支持が高かった。
もちろん、防衛政策への支持と外国人への態度を同じものとして扱うことはできない。ただ、社会の秩序や外部からの脅威に対する関心が高まるなかで、安全保障、外国人、文化をめぐる問題が、政治のなかで互いに結びつけて語られる余地が広がっていることには注意が必要だろう。
ここまでの分析では、候補者全体ではなく、実際に議席を獲得した当選者に焦点を当てている。ジェンダーと外国人受け入れのいずれについても、当選者は候補者全体と比べて、より保守的な傾向を示している。候補者全体と当選者の違いをさらに詳しく検討することは、今後の課題である。
では、こうした意識の変化は、実際の選挙政治のなかでどのような意味を持つのだろうか。その手がかりとなるのが、2025年参議院選挙で大きく議席を伸ばした参政党である。
参政党の台頭は、外国人をはじめとする文化的な争点が、現在の日本政治でどのように票へと結びついているのかを考えるうえで興味深い事例である。参政党は国内外で右派ポピュリスト政党として位置づけられることが多い。欧米の右派ポピュリスト政党については、グローバル化や産業構造の変化によって経済的に「取り残された」人々が支持層になっているという説明がしばしばなされてきた。
しかし、既存研究が示す実態はそれほど単純ではない。経済的に不利な立場に置かれていることと右派ポピュリスト政党への支持との関係は、地域によって異なる。地域に暮らす移民の割合など、人口構成によっても左右される。また、純粋な経済的不満よりも、移民をめぐる不満の方が右派ポピュリストの支持と一貫して結びついていることを示す研究もある。
日本の参政党支持者についても、「経済的に取り残された人々」という説明だけでは十分ではない。Chiki Labが2025年参議院選挙の期間中と選挙後に実施した調査によれば、参政党に投票した人の家計が、他党の有権者より特に不安定というわけではない。世帯年収500万円以上の層も少なくない。
年齢や性別にも、際立った特徴はみられない。40代がやや多く、70歳以上がやや少ない。男性もわずかに多いが、他党支持者との差はそれほど大きくない。だからといって経済的要因がまったく関係ないということではない。しかし、少なくとも一般的な所得、年齢、性別といった属性だけでは、なぜ参政党に投票するのかを十分に説明することはできない。
社会に対する「不公平感」が特に強いわけでもない。Chiki Labの調査では、「自分自身が公平な扱いを受けていない」「自分と同じ世代‧性別の人々が公平な扱いを受けていない」「日本社会は公平な場でない」「世界は公平な場でない」と感じる頻度を尋ね、これらをまとめて不公平感を測定している。分析の結果、参政党支持者の不公平感は、他党支持者と比べて特に高いわけではなかった。政治に無関心な層でもない。参政党支持者のおよそ75%は、直前の東京都知事選挙にも投票したと答えている。他党支持者と比べても、同程度かやや高い水準である。
それでは、何が参政党への投票と結びついているのだろうか。Chiki Labの回帰分析では、年齢、学歴、年収、不公平感、性格特性、ジェンダー意識なども考慮したうえで、参政党への投票との関連が統計的に確認されたのは「外国人に対する否定的意見」だった。つまり、参政党支持者の外国人に対する否定的な態度は、単に経済的不安や「自分は社会から不当に扱われている」という感覚の延長として生じているとは言いにくい。
参政党は、インターネットやソーシャルメディアを積極的に利用し、ときには誤情報も広がるなかで、「外国人問題」への関心を急速に高めてきた。経済的に困窮しているわけでも、社会に強い不満を抱いているわけでもない人々の間で、外国人をめぐる問題を「自分たちが不利益を受けている」という物語として捉える余地が生まれる。
こうした傾向を見ると、日本で外国人をめぐる新しい政治的な対立軸が形成されつつあるとすれば、その背景にあるのは経済的困窮だけではないことが分かる。国民のアイデンティティや文化、社会秩序をめぐる不安が、政党間競争の激化によって選挙で取り上げやすい争点になっている可能性がある。この点は、北米や西欧の政党政治を分析してきた研究とも重なる。
参政党の政治的な訴えを考えるうえでは、陰謀論や誤情報との接点についても指摘されている。2020年の結党以来、参政党はワクチン政策への批判などから、次第により幅広いテーマへと訴えを広げてきた。そのなかには、多国籍企業がパンデミックを引き起こしたとする見方のほか、移民の増加を日本社会のまとまりや治安への懸念と結びつける言説もみられる。外国人の流入と犯罪の増加を関連づけたり、外国人による土地取得を「反日的」な動きと捉えたりする見方もある。さらに、ジェンダー平等や同性婚を、日本の家族観に影響を与える「外国から持ち込まれた価値観」と位置づける言説もみられる。こうした複数の見方や論点は、2025年参議院選挙で掲げられた「日本人ファースト」というスローガンのもとで重ね合わされ、外国人をめぐる問題を前面に出した選挙運動は、参政党の支持拡大にもつながったとみられる。
そもそも陰謀論とは何か。研究では、権威ある機関が認めていない、あるいは明確な反証があるにもかかわらず、重要な出来事を強大な人物や組織による秘密の企てによって説明しようとする考え方として捉えられている。その内容は、隠された動機、秘密の操作、監視、裏で社会を動かす集団の存在など多岐にわたる。
Chiki Labによる別の調査では、参政党支持者は東京都の有権者全体に比べ、さまざまな陰謀論的な主張を強く信じる傾向がみられた。調査では、「男女平等や同性婚を求める動きは、家族を崩壊させようとする文化共産主義者の企てだ」「選挙の期日前投票では、票の書き換えなどが行われるなど、不正が行われやすい」「多国籍企業がパンデミックを引き起こした」「前回のアメリカ大統領選挙では、トランプを妨害するための不正選挙があった」など八つの主張について、どの程度正しいと思うかを尋ねている。
こうした言説の拡散に大きな役割を果たしているのがソーシャルメディアである。参政党はYouTube、X、TikTokなどを積極的に使い、とりわけ動画を中心とした発信を支持拡大につなげてきた。スマートニュース メディア研究所の調査では、他のメディア利用や年齢、性別を考慮しても、YouTube、Instagram、TikTokなどの「動画系SNS」でニュースを見る頻度が高いほど「陰謀論スコア」が高く、新聞を読む頻度が高いほどスコアが低いという統計的に有意な関係が確認された。一方、ネットニュースや動画以外のSNSの利用については、有意な関係はみられなかった。
もちろん、これは動画系SNSでニュースを見ることが陰謀論を直接生み出すことを証明するものではない。しかし、ソーシャルメディア利用と陰謀論・誤情報への信念との関連、オンライン上のエコーチェンバーと分極化の役割を示した既存研究とも整合的である。
参政党の事例が示しているのは、外国人をめぐる政治が、経済的不満だけによって動いているわけではないということである。外国人、ジェンダー、グローバル化といった異なる問題を、「日本の文化や社会秩序が外部から脅かされている」という一つの物語にまとめ、それをソーシャルメディアで繰り返し発信することで、それまで必ずしも選挙の中心ではなかった問題を、有権者にとって重要な争点に変えることができる。
2024年の衆議院選挙と2025年の参議院選挙を振り返ると、日本政治で起きている変化は、単に政党の数が増えたということではない。自民党の長期的な優位が揺らいだことで、政党間の競争は激しくなり、新しい政党が議席を獲得する余地も広がった。しかし、それが必ずしも政治をリベラルな方向へ動かしているわけではない。ここまで見てきた調査では、ジェンダー平等に関する支持の伸びに変化がみられると同時に、外国人労働者の受け入れについては政治家と有権者の双方で慎重な姿勢が強まっている。
それまで自民党中心の政党政治のなかでは大きな対立になりにくかった文化やアイデンティティをめぐる違いが、多党化によって表に出やすくなったと考えることもできる。参政党の台頭は、その変化を象徴している。調査を見る限り、その支持者は必ずしも経済的に困窮しているわけでも、政治から取り残されているわけでも、社会に対する不公平感が特に強いわけでもない。その一方で、外国人に対して否定的な見方を持ち、移民、ジェンダー平等、グローバル化などを日本の文化や社会秩序への脅威として捉える言説を受け入れやすい傾向がみられる。そして、インターネットやソーシャルメディアは、こうした問題を政治の中心に押し上げる役割を果たしている。
2026年2月の衆議院選挙では、こうした多党化の流れのなかで、いったん過半数を失っていた自民党が再び圧倒的な優位を取り戻した。高市早苗首相率いる自民党は465議席中316議席を獲得し、単独で衆議院の3分の2を超える議席を確保した。選挙前から高市内閣の支持率は高く、主要メディアの世論調査ではおおむね60~70%台を維持していた。日本初の女性首相という象徴性に加えて、高市氏個人のキャラクターも注目を集めた。ドラマーやオートバイ愛好家としての経歴は従来の政治家とは異なるイメージを生み、選挙前には若者を中心に「サナマニア」と呼ばれる人気が広がった。
もちろん、有権者にとって経済問題の重要性が低かったわけではない。物価上昇への懸念は引き続き強く、選挙でも生活費の上昇は主要な争点の一つだった。それでも、高市氏の政治的な訴えでは、経済政策だけでなく、安全保障や文化的に保守的な政策も大きな位置を占めていた。防衛力の強化、スパイ防止法制の整備、中国に対する強硬な姿勢、外国人政策の厳格化などは、それぞれ別々の政策でありながら、「秩序」「安全保障」「日本を守る」という保守的な政治メッセージのなかで結びついていた。それが高市氏の高い支持を支えた要因の一つだった可能性もある。一方、立憲民主党と公明党が結成した中道改革連合については、政党として何を代表するのかが分かりにくいという問題も指摘された。
2026年の選挙で自民党が圧勝したからといって、日本政治が再び以前の一党優位の状態に戻ったとみるのは早いだろう。むしろ、より多くの政党が競争するようになったからこそ、各党には、他党との違いを明確にするために新しい争点を打ち出す誘因が生まれている。ジェンダー、外国人、家族、国民的アイデンティティ、安全保障といった問題が、以前よりも選挙で争われやすくなっているのも、その変化の一部と考えることができる。日本政治の多党化とは、単に選択肢となる政党が増えることではない。どのような問題が政治の争点となり、政党がどのような違いを競い合うのか、その競争のあり方そのものにも変化をもたらすものである。
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